第2回 魅力爆発!『キン肉マン』オモシロ超人列伝

ゆでたまご

「超人」とは読んで字の如く
「人」を「超」えし者である

2011年に再会した『キン肉マン』新章の冒頭は、キン肉マンことキン肉スグルの祖父である、キン肉タツノリの以下の言葉より始まる。

「全宇宙にいる超人たちよ
おまえたちは何ゆえ比類なき力と戦闘能力を身につけ
この世に生を受けたかわかっているか?
それはその力を宇宙の平和のため人間たちをあらゆる外敵や禍から守るために神から与えられしものなのじゃ」

『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:38巻

『キン肉マン』の作品世界の中で闘いを繰り広げるのは人間ではなく、99.9%がこのような特別な力を備える「超人」と呼ばれる存在である(ごくまれに「ウララーッ!」と人間の身でありながら超人との闘いに参加するケースも起こりうるが、それは例外中の例外である)。そしてそれら超人には様々なタイプが存在する。

テリーマンやブロッケンJr.のように、一見しただけでは人間と全く変わらない超人や、キン肉マンやキン骨マンのように、一般的な地球人とはほんの少し異なる特徴を持つ宇宙人タイプ。野牛のツノを持つバッファローマンやマンモスの牙を持つマンモスマンのように、たくましい動物の特徴を持つ野獣タイプ。砂の超人サンシャインや山の超人ザ・魔雲天など大自然をモチーフにしたタイプ。またラジカセの化身ステカセキングやミキサーの化身ミキサー大帝など全身が機械でできた超人たち。さらには半分機械で半分生身のウォーズマンのような、混血のハーフとして生まれたタイプまでいて、その全てを生物学的に体系づけて分類していくのはとても難しい。

正直、この先新たにどんな超人が出てくるかは作者であるゆでたまご先生のみぞ知るもので、その自由奔放極まりない無限の発想力を系統立てて説明しようという試み自体が土台無茶な話なのである。だから超人とは「とりあえずなんか特殊な力を秘めたすごいヤツ」くらいのゆる~い認識が、最も妥当な解釈と言えるだろう。

『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:10巻

ゆでたまご

人を守るためその力を振るう 
これを「正義超人」という!!

とはいえそんな様々なタイプの超人たちを分類する方法が全く何もないわけではない。それは彼らを生物学的に分類していくということではなく、彼らが信じる「主義主張」で分類していくという方法だ。そしてこの分類こそが『キン肉マン』の世界では何より大きな意味を持つ。なぜなら全宇宙の超人たちは、それぞれが己の信じる主義主張のために闘いあっているからだ。
その分類は大きく分けて主に3つ。「正義超人」「悪魔超人」「完璧超人」この3属性のいずれかに、ほぼ全ての超人は分類される仕組みになっている(ちなみに作中でよく登場する「アイドル超人」「残虐超人」という言葉は、正義超人の中に含まれる一派であるという見解が強いのでここではあえて除外します)。

この記事の冒頭で挙げた引用では「超人は宇宙の平和のため、人のためにその力を使うべき」とあるが、これは全ての超人がそう考えているわけではない。これはまさに先に挙げた3属性のひとつ「正義超人」が理想として掲げる主張である。
正義超人にとっての闘いとは「相手とわかりあうための行為」である。闘いを通して相手を屈服、服従させるのではなく、お互いの全てをぶつけ合うことで、腹に一物抱えることなく爽やかにわかりあおうということなのだ。

『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:9巻

正義超人の主な特徴は「基本的には優しい」「相手とわかりあうために闘う」「たまに怖いヤツもいるがリングの外では紳士」。イラストはその代表格のひとり、キン肉マン

その理念を体現し続けてきた正義超人の代表格が、主人公のキン肉マンだ。彼が闘ってきた相手は“冷徹なるファイティグコンピューター”ウォーズマンや“1000万パワーを誇る究極のパワーファイター”バッファローマン、“6本の腕を持つ魔界のプリンス”アシュラマンなどなどとても恐ろしい超人たちだったが、血で血を洗う死闘の果てになんとキン肉マンは彼らとわかりあい、しかもその人格的魅力で改心させて正義超人の中枢にどんどんと引き込んでいくのである。そんな悪の超人たちが正義の心に目覚め、心を入れ替えていく様子のなんと爽やかなことか!

『キン肉マン』とはそうして心に闇を抱えた人物が、その闇を払拭して新たな希望の光に目覚めていく過程を楽しむ、濃密な人間ドラマなのである。たまたまその舞台が全て「リング」という特殊な場であるというだけのことなのだ。

『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:16巻

ゆでたまご

目的のためなら手段は選ばぬ! 
極悪非道の「悪魔超人」軍!!

それら正義超人の最大のライバル勢力と目されているのが「悪魔超人」なる属性である。
その特徴は、一言でいうなら「極悪非道」! 自分たちの目的の前に立ちはだかる敵は徹底的に叩き潰し、殺すことも厭わぬ恐怖の超人軍団である。
その彼らの目的とはずばり「宇宙征服」。超人たる者、武力をもって世を平定すべしといういわゆる「覇道」を是としており、それゆえ彼らにとっての闘いとは正義超人の理念とは真逆。相手を屈服、服従させ、平定していくための手段でしかないのである。

『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:20巻

悪魔超人の主な特徴は「基本的に怖い」「相手を抹殺するために闘う」「組織としての結束がとても強くて仲がいい」。イラストはその代表格のひとり、サンシャイン。

そんな彼らのもうひとつの大きな特徴としては、属性全体が明確に組織化されているというところだ。“恐怖の将”と異名される超人・悪魔将軍を頂点とし、その直属の部下として“悪魔騎士”と呼ばれる6名の大幹部がすぐ背後に控える。アシュラマン、サンシャイン、ザ・ニンジャ、ジャンクマン、プラネットマン、スニゲーターの6名だ。
そして一般的な悪魔超人たちは、そのさらなる配下として指令を受け活動している。バッファローマンやブラックホール、アトランティスなど、キン肉マンの前に最初に現れたいわゆる“7人の悪魔超人”たちがその階級にあたる者たちで、ヒラ社員ならぬ“ヒラ悪魔超人”の中の精鋭軍団として、彼らは真っ先に超人オリンピックの覇者であるキン肉マンに、挑戦状を叩きつけてきたというわけである。

『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:10巻

ゆでたまご

最も神に近いといわれる存在 
誇りの集団「完璧超人」軍!!

そして最後に紹介したい至高の一派が「完璧超人」と呼ばれる属性である。
「完璧超人」という言葉は今や、我々人間の日常世界でも「なんでも全て卒なく完璧にこなす人」を指す俗語として使われることも多いが、この言葉の語源こそまさに本作『キン肉マン』における彼ら、完璧超人のことなのである。ただし本作内での彼らを指す場合は、読み方に注意が必要だ。「完璧(かんぺき)超人」ではなく、「完璧(パーフェクト)超人」と読む。これが『キン肉マン』の世界の中における彼らの呼称である。

『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:18巻

完璧超人の主な特徴は「基本的に無表情」「相手はどうでもいい。自分の強さを確認するために闘う」「規律に厳しい」。イラストはその代表格のひとり、ネプチューンマン。

完璧超人とはまさに「完璧」な超人である。一般的な正義超人の平均20倍程度と言われる圧倒的な超人パワーを備え、並大抵の打撃は鍛え上げられた分厚い筋肉や装甲でいとも関単に跳ね返す。攻めも守りも完璧だ。
しかし完璧すぎる集団であるがゆえに、彼らには恐ろしい鉄の掟がある。それは決して、敗北が許されないということだ。同属性の完璧超人相手ならともかく、他属性の正義超人や悪魔超人に負けることは彼らにとってこの上ない恥辱であり、死よりも重い罪であるとされている。そもそも彼らは他属性の超人をわざわざ区別して呼んだりはしない。自分たち完璧超人以外は彼らは皆一様に「下等超人」と言い放ち、蔑んでいるのである。そんな下等超人にもし万が一にも負けてしまった場合はどうするか? なんと彼らはその恥を濯ぐため、自害をして責任を取るのである!

『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:38巻

なんという困った集団であろうか。だから悪魔超人はともかく、正義超人は非常に彼らと闘いづらい。なぜならもし彼らと闘って勝ってしまったら、わかり合うどころか、彼らは勝手に自害してしまうからだ。だからなかなかお互いわかりあうことができないのだが、そんな完璧超人の中にも、キン肉マンとわかりあえた男がいる。それが完璧超人の代表格のひとり、ネプチューンマンという男だ。
このネプチューンマン、当初は散々横柄な態度を取り、同時にその態度にも頷けるほどのケタ違いの実力でロビンマスク、ウォーズマン、モンゴルマンなど、正義超人界有数の実力者を次々とマットに沈めていった。しかし最後の最後、キン肉マンに彼は敗れてしまったのである。その際に彼が発した言葉。
「この世に完璧なものがひとつだけある…。それは、正義超人の友情さ!」
自らが実は完璧などではなかったことをついに悟ったネプチューンマン。その彼が最期に残したこの言葉は『キン肉マン』という作品全体を通しても屈指の名言のひとつである。

『キン肉マン』ゆでたまご コミックス:23巻

以上、そんな主義主張の異なる彼らが真っ向からぶつかり合い、それぞれの思いを闘わせて刻々と世界の常識を変えていく。それが『キン肉マン』という作品の芯にある、骨太なドラマの正体なのである。